血液疾患をもつ人が、
自宅に戻ったあと安心して受けられる医療とは
- イ:
- 「血液在宅ねっと」で患者さんを対象にとったアンケートの中で、血液の患者さんのほとんどは在宅でも血液の専門の先生に診てほしい、という希望が強かったんです。これはいいことでもあるけれど、血液の在宅を難しくしてしまっている部分なのかもしれません。
- 宮崎:
- 患者さんが血液内科の病棟に入院している時には、頻繁に採血して、定期的に輸血を受けています。それが、退院して在宅医療に移行すると、採血の間隔はずっと長くなるし、輸血だって貧血が相当ひどくならなければやらないなどと言われるわけです。あまりの違いに、患者さんやご家族が不安になられるのは当然です。
病棟と在宅では文化が違うわけですが、そこを上手に説明して、受けいれていただくのは大変なことです。ましてや、その説明を血液内科を専門としないドクターにお願いするとなると、「自分は血液内科じゃないので勘弁してください」ということになってしまうでしょう。
- イ:
- 今まで、患者さんのほうも「うちは血液内科じゃないから診られない」と散々言われてきているだけに、「自分は血液内科でないと診てもらえないんだ」と思うのは当然といえば当然ですよね。
- 宮崎:
- 血液内科医のほうも、自分の患者さんを囲い込む傾向が強いですね。血液内科以外の医師に、血液疾患の患者さんを触らせたくない。だから、「風邪をひいても、近くの開業医を受診してはダメ。私が診ますから、必ず連絡してください」などと、患者さんやご家族に言ってしまうのです。
- イ:
- 良くも悪くも、主治医の意識がとても強い科ですもんね。
- 宮崎:
- そうですね。移植後20年も経過して、白血病は治っているのに、宮崎医院の外来に通って来るのは、主治医であるわたしに、「大丈夫です。病気は再発していませんよ。」と言ってもらいたいからです。
- イ:
- 先生のように、移植の方を地域に戻ってからもずっと診てくださるととてもいいですね。外勤で病棟の先生がクリニックで外来をしてくれるような機会が増えるといいのかもしれませんね。
- 宮崎:
- 血液内科医の外勤先は、クリニックではなく病院であり、業務もプライマリ・ケアではなく、専門外来である場合がほとんどです。普通の町医者の外来に、血液内科医がいることは極めてまれでしょうね。
- イ:
- そのへんが、地域と基幹病院が連携していけたらいいんですけれどね。
- 宮崎:
- 病院に長期間入院することが困難な時代ですので、これからは意図的に二人主治医制を進めるべきです。つまり、専門的な医療を提供する病院専門医と、慢性疾患の管理や医療介護連携ができるかかりつけ医と、二人主治医がいるようなれば、血液難病の患者さんでも、安心して地域に帰ってこられます。
- イ:
- 結局、輸血のある人とか、出す側も抵抗感があるし、受ける側の在宅も受け手がいないとなると、なかなか進まないですよね。経営的なメリットがあるわけでもないですしね。
- イ:
- 地域で働く血液内科の先生へのメッセージをお願いします。
- 宮崎:
- 病院で最先端の医療を行うだけが、血液内科医の仕事ではありません。何らかの事情により病院専門医のキャリアを終えて、地域のなかでプライマリ・ケアに従事するようになっても、血液内科のマインドを捨てることなく、反対にその強みを活かして仕事をすることはできます。その強みとは、患者さんを総合的に診療できること、検査データを精密に吟味できること、新しい医学や医療を貪欲に吸収して自らの診療に取り入れられることなどです。病院専門医のキャリアで培った主治医力は、プライマリ・ケアの現場でも強力な武器となります。街場の外来にも、血液学的問題を抱えた人々は登場しますから、“Community hematologist”の存在価値は高いです。「血液専門医を持っている開業医」は、端から見ると「珍獣」ですが、珍獣なりの生き方がありますし、街場の血液学を究めるのは楽しいですよ。
- 【宮崎仁先生インタビュー1】「街場の血液学」の取り組み
- 【宮崎仁先生インタビュー2】血液内科を専門としたきっかけ
- 【宮崎仁先生インタビュー3】在宅医療や、血液疾患をもつ方との関わりについて
- 【宮崎仁先生インタビュー4】血液疾患をもつ人が、自宅に戻ったあと安心して受けられる医療とは