宮崎仁先生(宮崎医院 院長)「街場の血液学」を担う医師として (1/4)


今回は、宮崎医院院長の宮崎仁先生に、地域医療での血液内科医のあり方について、ご自身の日々の診療を通じてお話して頂きました。

宮崎 仁 (みやざき ひとし)
宮崎医院(所在地・愛知県西尾市吉良町吉田上浜32) 院長

<略歴>

1986年3月  藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒業
1986年4月  聖路加国際病院 内科レジデント
1988年4月  聖路加国際病院 内科医員
1989年4月~ 藤田保健衛生大学病院(現・藤田医科大学病院)血液・化学療法科勤務
1994年4月  藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部内科学助手
1998年4月  藤田保健衛生大学医学部内科学講師
2002年7月~ 宮崎医院院長

<資格等>

医学博士、日本内科学会認定「総合内科専門医」、日本血液学会認定「血液専門医」、日本医師会認定「産業医」、日本プライマリ・ケア連合学会認定「プライマリ・ケア認定医」、藤田医科大学医学部内科学客員准教授、一般社団法人西尾市医師会・副会長、西尾市医師会准看護学校・校長

<著書>

「もっと知りたい白血病治療」(単著・医学書院・刊)
「白衣のポケットの中:医師のプロフェッショナリズムを考える」(編著・医学書院・刊)
「プライマリ・ケア医のための自殺予防と危機管理:あなたの患者を守るために」(編著・南山堂・刊)
「いまどきの依存とアディクション:プライマリ・ケア/救急における関わりかた入門」(編著・南山堂・刊)
「ぶらなび・血液疾患診療ナビ(改訂第2版)」(編著・南山堂・刊)
「生きると向き合う:わたしたちの自殺対策」(編著・南山堂・刊)

宮崎仁先生インタビュー「街場の血液学」の取り組み

インタビュアー
(以後、イ):
今日はよろしくお願いします。元々血液内科ご専門の先生が、どんな風に地域に貢献されているのかを、現在ご活躍されている先生を取り上げていくことで、伝えられたらいいなということで、このコーナーをスタートしています。
某先生から、地域での血液内科医を「Community hematologist」という言い方で、その役割を考えていけたらいいんじゃないかなとアドバイスを受けたことがありました。
宮崎先生
(以後敬称略):
そうですね、私は勝手に「街場の血液学」※と名付けています。

病院で血液内科の診療だけしている血液内科医もいれば、地域という「街場」で血液内科医としてのマインドを忘れずに、かかりつけ医として様々な健康問題に立ち向かっている開業医もいるのだということを、多くの人に知ってもらえたらうれしいです。

※宮崎先生はCareneTVでも「街場の血液学」として講義をされています。

イ:
僕の周りでも、たとえば子育てを機に病棟から離れてそのままキャリアが中断されてしまって、ちょっともったいないなと思う時があります。それぞれの立ち位置で、少しでもご自身の経験を生かして頂くことで、地域にも大きく貢献できると思うんです。
宮崎:
私は日本プライマリ・ケア連合学会の生涯教育セミナーなどで、血液内科を専門としない医師たちを対象として、「街場の血液学入門」という教育セッションを行っています。そこでは、白血病や悪性リンパ腫の話はほとんど出てこなくて、非専門医の医師たちが毎日本当に診ている血液疾患のみを扱います。

それは、例えば健康診断で見つかった軽度な白血球増加や、老人ホームに入居している高齢者の貧血といった、ごくありふれた問題です。

毎日私たちの前を次々と通り過ぎてゆく血液データの山を、血液内科医の視点から見直してみると、見逃してはいけない重要な問題が見つかることが珍しくありません。「軽微な血算の異常でもスルーしないで、もう一歩踏み込んで考えてみる」というのが、街場の血液学のコンセプトです。

イ:
先生は先駆けて、十数年あまり血液疾患の地域医療・在宅医療のあり方を実践してこられているわけですよね。
宮崎:
血液専門医の資格を持っている開業医だからといって何か特殊なことをしているわけではありません。血液内科は特殊な診療科だから、一般内科の開業医に転職するのはむずかしいと誤解されているようですが、私は「血液内科医は開業医に向いている」と思います。血液疾患の患者さんは、元々の病気だけでなく、感染症、複数の臓器合併症、心理的な苦痛、社会経済的な困り事などを、常に抱えています。それらの問題解決にあたる血液内科医は、どうしても総合診療的な診療を行うことになります。この経験がプライマリ・ケアの外来診療や在宅医療の実践にとても役に立ちます。「主治医としての機能が高い」と言い換えでも良いでしょう。さらに、血液内科医は常に新しいことを学び、それを日常の臨床に取り入れていかなければなりません。その「新しいことを貪欲に学びつづける姿勢」を、開業医となってからも習慣として続けることができるのも大きな強みです。
イ:
我々在宅医療をしていても、「元血液内科医」という人は意外によく見かけるのですが、むしろあまり血液内科であることを出さないでやられている先生も多いように思います。
宮崎:
総合診療や家庭医療学の世界でも、血液内科ご出身の高名な先生が何人かいらっしゃいますね。私は開業した当初から、日本のあちこちに隠れている「元血液内科医」たちを見つけ出して、ネットワークができたら良いなと思っていますが、現実にはうまく繋がりを作れておりません。