翁 祖誠先生 インタビュー(2/3)外来と在宅で化学療法を実施する意義

外来と在宅で化学療法を実施する意義

――外来化学療法を実施しているやぐちメディカルクリニック。外来ではどのような患者さんがいますか?

 外来は一般内科と血液疾患の患者さんが半分ずつくらいです。血液疾患の中でもクリニックの方がマッチしやすい疾患などがあると思っています。低リスクMDSのエリスロポエチン製剤・輸血、再生不良性貧血・ITPの患者さんのTPO-RAの投与・輸血などです。クリニックでの診療は待ち時間の負担が少ないとのことで、満足度が高いと思います。実施する化学療法については血管漏出などの安全面の問題もあるため、抗がん剤の種類は限定していて、リツキシマブ・トシリズマブ・ボルテゾミブ・アザシチジン・カーフィルゾミブなどに対応しています。特にアザシチジンは、投与回数が多く、点滴投与で行いますが、来院から会計まで1時間かからず終了しますので大幅に負担を軽減できると思います。また院内に薬剤師がおりますので、IMIDSの処方も対応することができます。

――在宅での化学療法実施も増えているように思います。こちらはどのような患者さんがいますか?

 訪問診療の患者さんは輸血依存やターミナルが3割くらいです。化学療法を行う患者さんは1割程度でまだ多くはありませんが、繰り返し投与している方が多いです。高齢・フレイル症例では化学療法の遂行に通院負担がとても大きいため、基幹病院と協力しながら化学療法を行っています。具体的にアザシチジン療法の例を挙げると、day1のみを基幹病院で行い、残りのday2-4を自宅で投与します。基幹病院では現病の治療方針・評価などを行い、薬剤投与・輸血や緊急時の初期対応や内服順守・介護サポートの部分は訪問診療が調整していくようなイメージです。在宅での投与経路は皮下です。

 骨髄腫の患者は高齢者が多く、骨病変を抱えるとADL低下も著しいです。実際に訪問診療の介入が必要となることが多いです。IMIDSが投与されている方は、服薬スケジュールが複雑で、サポートを要することがあります。忙しい基幹病院の外来ではリハビリや訪問看護などの社会的な処方に時間があまりかけられませんが、訪問診療はむしろそこを得意としていますので、積極的に介入していきます。

――外来と在宅での化学療法、やりがいがありそうですね。

 ある患者さんの話ですが、治療適応が厳しくなってきたので、ターミナルケアへシフトチェンジを、と思い在宅医療をお勧めしました。しかし自宅でも化学療法を継続したいと申し出があったので、姑息的治療として、減量や投与間隔も開けて治療を行いました。
 すると徐々に治療効果が上がり、寝たきりだった患者さんが元気になっていくのです。

 大学病院の血液内科医師という立場からは、いったんさじを投げているのですが、在宅の血液内科医としては患者さんの要望に応えるというスタンスで拾ってやってみる。どちらも同じ私がやっていることなのですが、自身を使い分けて診療しております。

――実現するためのスタッフ体制や管理はどのようにされていますか?

 常勤看護師が5名、薬剤師が1名、事務が4名おります。また看護師3名が臨床輸血看護師の資格を取得しています。輸血や血液学的な処置に対しアクティビティが高く助かっています。当院では、外来の患者さんが訪問診療に移行することも多いので、医師だけでなく看護師も顔見知りだと、移行後も信頼関係が築きやすいと考えているため、あえて外来も往診にも対応してもらいます。

 薬剤師が在宅支援診療所にいる意義は、最近学会でも取り上げられています。当院ではレナリドマイド・ポマリドマイドといった、薬剤師が在籍していることが条件の薬剤を処方することができ、多発性骨髄腫診療に必須です。また麻薬管理についても貢献が大きいです。当院ではターミナルケアで年間50人ほどの看取りがありますので、必要時に注射麻薬を扱うことができるのは大きいです。夜間であっても持続皮下注ポンプを使用でき、場合によってはセデーションも行うことができます。一般的な処方についても、薬局間とのやりとりに薬剤師が介入することが多く、さまざまな調整を行ってもらいます。今後も在宅支援診療所における薬剤師の位置づけについては議論されていくのではないかと思います。