日赤医療センター血液内科 石田禎夫先生・連携室インタビュー(2/2)「緩和ケアや地域への移行の難しさ」

日赤医療センター内における緩和ケア連携の現状

大橋:
血液疾患では一般的に、緩和ケアへのコンサルトが行われる事例が少ないことが問題として挙げられます。貴院は緩和ケア病棟をお持ちなので、連携はスムーズに行えていますか?
石田:
当科にいらっしゃる患者さんは、早めに治療を諦める方は非常に少ないです。むしろ血液疾患と闘うために当院に移ってこられる方が多いですから。もし、まだ輸血があまり必要なく、積極的な治療は行わずに痛みだけ取ってほしいという患者さんがいらっしゃったら緩和ケアチームにつなぎやすいですが、そういった方はなかなかいないですね。
川島:
実際に調べてみましたが、やはりかなり少ないです。私が知る限りでは、緩和ケア病棟に引き継いだ患者さんは2名のみです。
石田:
緩和ケア病棟に移る患者さんはあまり多くありませんが、痛みを取るという点では、治療の比較的早い段階から緩和ケアチームにも入ってもらっています。多発性骨髄腫では骨折することもあるので、治療の初期段階から麻薬を使います。通常の麻酔量でコントロール可能な時は、こちらで麻薬を処方しますが、それで痛みのコントロールが難しい場合は、緩和ケアチームに麻薬の調整などを行ってもらっています。
川島:
あとは、いずれ緩和ケア病棟に移ることを希望している患者さんに対し、外来での症状コントロールの際、血液内科医と並行して緩和ケア医に入ってもらったことがありました。予後が厳しくなり緩和ケア病棟への移行を進める段階になった時、血液内科医からの説明が難しかったところを、緩和ケア科の先生に汲み取っていただき、患者さんの病状理解を上手に進めてくれたこともありました。

外来での化学療法から在宅へ移行することの難しさ

大橋:
化学療法室では、患者さんから自宅で治療を受けたいと相談されることはありますか?
横田:
通院の大変さを聞くことはありますが、石田先生も仰ったように、治療を求めて当院に来られる方が多いですし、ご自宅近くで治療を受けることを想像される方も少ないので、ご自宅で治療したいと直接伝えてこられる方はあまりいらっしゃらないです。化学療法が継続できていると、在宅移行に関してお話しする機会が多くないですし、在宅移行のタイミングも伸ばしがちになってしまいます。
大橋:
外来で化学療法をされている方に、在宅移行に関してしっかりお話するチャンスを作るのは難しいですよね。
横田:
そうですね。私は、化学療法を受けていたものの再発し、治療が限られてきた患者さんに、在宅移行までにはまだ少し時間がありそうだけれども、そこを見越したお話を少しずつしていくような役割をさせてもらっています。でもほとんどの患者さんは「本当に最後を迎えるのは自宅がいいけれども、できる限り最後まで治療を続けたい。輸血を続けたい」と希望されます。

また、ADLは保たれることも多いので、ご本人が感じておられる自覚症状と血液データが一致しないこともあります。そういった患者さんは、本当にギリギリまで、最後を迎えるイメージが持ちにくいです。ご家族に関しても、在宅移行後に必要なご本人に対するケアや、急変した時の対応方法などをイメージできていないことがあります。少しずつお話を進めていきたいのですが、いつも難しく感じています。

川島:
血液疾患の特徴ですが、まだお若い患者さんもいらっしゃいます。ご高齢の方だと、病状の説明など先生が話したことをある程度理解し、受け止められる方もいらっしゃいますが、お若いと、全てを受け止められない方は多いです。そのような患者さんの前に、突然私のような地域連携や患者支援の看護師が現れると脅威にしかならず、泣き出される方もいらっしゃいます。

急速に病状が進んでお亡くなりになる方もいるので、ご希望がある場合、最後の時をご自宅で過ごしてもらえるよう、在宅調整をかなり急がなければいけないことも多々あり、そういった点でも難しさがありますね。

大橋:
そのような中で在宅移行されて印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
横田:
他の病院からセカンドオピニオンでいらっしゃった男性の患者さんです。在宅移行の調整をして、最後の数日間をご自宅で過ごしてお亡くなりになりました。後日、その方の奥様がお手紙をくださったんです。
石田:
形質細胞白血病をなんとか治療したいと、強力な化学療法を何コースも行いましたが効かず、在宅移行を進めることになりました。

横田:私は、最後の治療方法を開始する前から関わらせていただきました。最後はご自宅で過ごしたいという希望をしっかりお持ちだったものの、できる限り治療をしたいというご希望もありました。いよいよあと一週間ほどで危ないかもしれないという時、在宅移行でき、ご自宅に移られてから3日後にお亡くなりになりました。

奥様からのお手紙には「本人の希望を叶えて、自宅で最期を迎えられたことが、せめてもの救いです」と書かれていました。おそらく、ご本人やご家族が思っていたよりも早くお亡くなりになったとは思いますが、ご希望通り最後の時間をご自宅で過ごせたのは、私たちとしてもよかったなと思っています。

(インタビュー:大橋 晃太/NPO血液在宅ねっと世話人)