日赤医療センター血液内科 石田禎夫先生・連携室インタビュー(1/2)「地域でも輸血・化学療法を継続できれば」

今回は、日本赤十字社医療センター血液内科石田禎夫部長と、患者さんの地域移行に携わる看護師2名に、血液患者さんを地域へ移行する際の課題や、地域の診療所に求めることを伺いました。

石田 禎夫 先生

日本赤十字社医療センター血液内科部長兼骨髄腫アミロイドーシスセンター長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本血液学会認定血液専門医・指導医・評議員
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
身体障害者福祉法指定医(ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害)
難病指定医
小児慢性特定疾病指定医
日本骨髄腫学会理事
緩和ケア研修会修了者

横田 夏紀 看護師
日本赤十字社医療センター化学療法室がん看護専門看護師
川島 佐智子 看護師
日本赤十字社医療センター患者支援室療養支援課看護師

地域移行の課題

大橋:
病院から地域へ患者さんを移行する際、現在困っていることや壁に感じていることはどのようなことですか?
石田:
まずはやはり輸血の問題です。地域へ移行したいと思っても、輸血を行ってくれるクリニックを簡単に見つけられないのが現状です。赤血球輸血を行なってくれるクリニックはある程度ありますが、血小板輸血を行ってくれるクリニックはなかなか見つかりません。血小板輸血が必要な患者さんは一定数いらっしゃいますので、そこが壁となって当院から地域へと移行できない患者さんが数多くいらっしゃいます。

また、骨髄異形成症候群(MDS)や急性白血病、MDSから白血病になった患者さんは、最後まで治療することを希望される方が多いです。そのような患者さんを在宅移行するタイミングを見計らうことが、非常に難しいと感じています。

医療者から見るとそろそろ危ないので在宅移行の準備をしたいと思っても、治療中の患者さんは意外と元気なので、ご本人もご家族も在宅移行の手続きを進めません。そして、かなり具合が悪くなってから慌てて在宅移行を進め、ご自宅に帰ってから一週間以内にお看取りとなるケースも多々あるのです。

最期をご自宅で過ごしたいと希望される患者さんには、十分な時間をご自宅で過ごしていただきたいと思いますが、一方で「余命があと1〜2週間です」とは簡単に言えません。この点に、大きなジレンマがあります。

私が専門とする多発性骨髄腫の患者さんに関しても、治療自体が緩和につながっている部分が大きいので、その治療を全て止めて在宅移行する決断をするのは、患者さんにとって難しい。在宅移行後に化学療法を継続してくれるクリニックがあればいいですが、実際には、なかなかありませんからね。

川島:
一件だけ、多発性骨髄腫でアミロイドーシスを発症後、当院で化学療法を導入した患者さんの治療を、外来で引き継いでくれるクリニックが埼玉県にありました。治療のためには、毎週当院まで通院しなければならない状態だったのですが、クリニックで治療を引き継いでくれたおかげで、患者さんは定期的に、評価のために当院を受診するだけで済んでいます。患者さんの負担は大幅に軽減されていると思います。

少しでも患者さんの負担を減らせるよう地元へお返ししたいのですが、地域の病院でも、化学療法はなかなか引き継いでもらえません。埼玉県にあるようなクリニックが地域にあると、非常にありがたいです。

地域のクリニックに求めること

大橋:
化学療法の話が出ましたが、その他にも地域のクリニックで行なってほしいことはありますか?
石田:
ベルケイドの皮下注射ですね。皮下注射での投与が追加承認され、治療を行いやすくなったのですが、この治療法は6カ月間、毎週皮下注射で投与しなければなりません。アミロイドーシスのある患者さんは、足がむくむなどして移動が困難な方もいらっしゃいます。そのような方が毎週当院まで通院するのは、かなり大きな負担です。4週に一度だけ当院を受診してもらい、残りの3回は地元のクリニックで投与してもらえると、患者さんとしては非常に助かると思います。
横田:
ビダーザ皮下注射の治療を受けられる患者さんは、連日当院まで来る必要があります。特に高齢で、かつ予後も厳しい方の場合、ご自宅が少し遠方だと連日の通院がかなりの負担になります。ですから例えば、5日連続でビダーザ皮下注射が必要なとき、評価が必要な時以外は患者さんのご自宅近くのクリニックで注射を打ってもらえると、患者さんの負担を減らせるかなと感じています。
大橋:
地域のクリニックで化学療法を引き継ぐ場合、クリニックの医師は血液内科医が良いと思われますか?
石田:
やはり血液疾患は感染症を合併しやすいですし、たとえば敗血症になった場合、すぐ対応しなければ患者さんの生命の危機に関わります。血液内科医なら、そういったリスクを理解した上で対応してくれるので、連携先の医師が血液内科医だと安心して紹介できますね。
大橋:
患者支援室としては、いかがですか?
川島:
これまでは血液疾患の患者さんのことで、地域の先生方と連携するような機会がほとんどありませんでした。しかし近年は、血液疾患の患者さんを診てくださるクリニックが少しずつ出てきています。また、クリニックでどういったことが行えるのか、ご自宅ではどこまで治療が可能なのかといったことが、見えるようになってきました。

このような変化から少しずつ連携できるようになってきているので、地域の先生方に担っていただける範囲についての情報がより分かりやすくなると、在宅移行を進めやすいですし、お願いできることも増えていくのではと思います。

インタビューその2「緩和ケアや地域への移行の難しさ」に続く

(インタビュー:大橋 晃太/NPO血液在宅ねっと世話人)