瀧本 円先生 インタビュー(1/2)地域で血液疾患を診て実感すること

今回は、川崎七福診療所の瀧本円先生に、病棟勤務からCommunity Hematologistとなるまでの経緯、そしてご自身のこれからの目標について等、お話を伺うことができました。

瀧本 円先生
招福会 川崎七福診療所(所在地:神奈川県川崎市川崎区小田1丁目 1-2 ソルスティス京町 4F)常勤医師

日本血液学会認定血液専門医・指導医
日本内科学会総合内科専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本緩和医療学会認定医
所属学会:日本血液学会、日本内科学会、日本緩和医療学会

<略歴>

2002年3月 聖マリアンナ医科大学 卒業
2008年3月 聖マリアンナ医科大学大学院 (内科系血液・腫瘍学専攻)博士課程修了 博士(医学)取得
2008年4月 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院血液内科 医長
2012年4月 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院血液内科 主任医長
2017年12月 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院を退職、以降非常勤医師として勤務し現在に至る
2018年4月 招福会川崎七福診療所に常勤医師として勤務し、現在に至る

Community Hematologistへキャリアチェンジしたわけ

――医師を志して聖マリアンナ医科大学に進学された瀧本先生。血液内科に興味を持ったのはいつ頃でしたか?

医学部4年生の時に、同級生の一人が白血病で亡くなったことがきっかけです。その同級生は、大学3年の後半で白血病を発症し、休学して同大学病院の血液内科で入院治療を受けていました。大学4年時の血液内科の講義中に、講義を担当された先生が「現在入院治療を行っているが厳しい状態となっています。残された時間が限られているため、みんな会いに来てください。」とお話しされました。

それほど仲の良い間柄ではなかったので、先生から知らされるまで、その同級生の病状について全く知りませんでした。そして友人たちとお見舞いに行くと、同級生の姿はすでに終末期の様相で――。同級生の病気に対する自身の無関心や、白血病という病気に対して全く無知だったことに衝撃を受け、罪悪感のようなものを抱くようになりました。

間もなくその同級生は亡くなり、ご実家でお葬式をされたので、結局葬儀に参列もできずお墓参りもできませんでした。そのことが私の中では申し訳なさとして、くすぶり続けていました。この出来事から血液疾患に興味を持ち、同級生の無念を晴らしたいという弔い合戦のような思いもあり、血液内科医になることを決めました。

――2018年、現在勤められている川崎七福診療所へ移られました。どのような経緯でCommunity Hematologistへキャリアチェンジしていったのですか?

臨床研修や博士課程を経て、聖マリアンナ医科大学の関連病院である横浜市立西部病院に約10年間勤務していました。その中で、終末期になっても2〜3カ月入院し、ご自宅に帰りたいと願っても病院で最期を迎えられる方が多くいらっしゃって――このことに悶々とした思いを抱くようになりました。

一方、血液疾患の方の終末期では、輸血やオピオイドが必要となるケースが多く、病態の予測も難しいのが実際です。そのため、血液疾患を経験されたことがない地域の先生方にお願いしにくいという思いもありました。

こういったジレンマを感じるようになり、訪問医療の現場で輸血をはじめとして血液疾患の患者さんを診られる環境を整備するとともに、地域で血液疾患を診られる医師が増えていかなければ、この課題は解決できないと思うようになっていきました。こういった思いが強くなってくる中で「血液在宅ねっと」や世話人の大橋晃太先生と出会い、お世話になった教授の退任のタイミングで、Community Hematologistへキャリアチェンジしたのです。

地域で診られる血液疾患は多い

――川崎七福診療所では現在、どういった患者さんを診ていますか?

私は外来と訪問診療の両方に関わらせていただいています。 2018年に勤め始めてから、院長先生や事務スタッフの方と話し合いを重ね、血液疾患も診られる環境を少しずつ作りました。

具体的には外来で血液内科を標榜し、また訪問診療でも血液疾患の患者さんを受け入れています。人数的にはまだまだ少ないですが、最近では近隣の病院からご紹介いただいた患者さんを外来では10〜20人ほど、訪問診療では2〜3人を診ています。

――外来と訪問診療、それぞれでどういった血液疾患の患者さんを診ているのですか?

外来では、例えば真性多血症や特発性血小板減少性紫斑病などを診ています。血算の異常が極端でなければ、そして病院である程度コントロールできているのであれば、クリニックの外来で診ていくことに問題はありません。その他にも慢性リンパ性白血病や溶血性貧血など、病状が安定していればフォローアップは可能です。あと、定期的にCTなどの画像検査をご紹介いただいた病院などにお願いできれば、リンパ腫治療後のフォローアップも可能かと思います。

訪問診療では基本的に血液疾患の終末期の方や、外来で診ていた患者さんで具合が悪くなり、訪問診療に切り替えた方などを診ています。1年前には、在宅で赤血球輸血や血小板輸血ができる体制も整えました。在宅輸血ができるようになったことで診られる患者さんの幅が広がり、先日は、急性白血病の終末期の方をご自宅でお看取りさせていただきました。

地域の診療所に来てみて、受け皿さえあれば、地域の診療所でも診られる血液疾患の患者さんは本当に多いことが分かりました。

ただ患者さんの側も、やはり大きな病院で診てもらえると安心感があると思いますし、クリニックで血液疾患を診てもらおうと考える方は、まだまだ少ないと思います。こういった観点から考えると、今後はさらに、患者さんと地域の診療所をつなげる活動をしていく必要があるかなと思っています。